コラム 考えるツボ

「このメールの報告文、ちょっとよく分からなかったんだけど・・・」

あなたは、上司や同僚からこんなことを言われ、再度メールの内容を、口頭で説明しなおしたことはないでしょうか?

あるいは、上司が“報告された内容がよく分からなかった”がために、確認を後回しにされ、その間「仕事が止まってスケジュールが遅れた」なんてこともあるかもしれません。

わかりにくい文章を見て悩む上司

それらはすべて「文章がわかりにくい」からこそ起こったトラブルであり、チャットやメールによる文字でのやりとりが増えている現代、小さなトラブルも含めれば、毎日のように頻繁に起こっていることでしょう。

しかし、「分からん!」と叱られるだけならまだしも、中には「分かりやすい文章が書けなかったために、取り返しのつかない大きな事故」になってしまった例もあります。

そこで今回は、「分かりやすい」とは何かを考えるとともに、「分かりやすい文章を書くコツ」を紹介します。
「分かりやすい文章」が書ければ、スムーズに意図が相手に伝わります。

すると、意見や提案なども通りやすくなり、発言力が高まります。
発言力が高まれば、やがてそれは信頼となり、今以上に仕事がしやすくなるかもしれません。

文章力がなかったために大事故になった事例

「文章力がなかったために起こった大事故」とは、NASAのスペースシャトル・チャレンジャーの爆発事故のことです。

チャレンジャーが爆発事故(1986年)を起こす前に、NASAでは、技術上の欠陥を指摘したレポートがエンジニアから提出されていました。
しかし、そのエンジニアの上司が、レポートを無視したので、事故が起きたのです。

事故後、その上司は裁判で訴えられましたが、「レポートの書き方が悪かったので、事態の深刻さが把握できなかった」という主張が認められて、無罪になりました。

論理が伝わる世界標準の書く技術(P.4)

引用したこの本の中では、「正しく伝わるレポートが書けていれば、事故を未然に防げたかもしれない」とあり「分かりやすい文章」を書くことが、いかに重要かを伝えています。
(この事故の場合、「一人の上司しか確認しない」という組織体制や、整備不良に至った経緯など他の問題も絡んでのこととは思いますが)

論理が伝わる世界標準の書く技術

もちろん、普段の仕事でここまでの大事故は起こらないにしろ、もしあなたが上司から

  • 「何を言っているかわからん!」
  • 「それ、どこ業界用語?」
  • 「で、結論から言うと?」

などと、よく言われてしまっているとしたら、それはあなたの上司が不勉強なせいだけではないかもしれません。

「分かりやすい」とは脳が「ラクに理解できる」状態のこと

分かりやすい文章の書き方を伝える前に、まず「分かりやすい」とは何かを考えてみましょう。

そもそも「分かりやすい!」と感じるのは、脳による働きなので、脳に対して「分かりやすい!」と思わせる文章を書けば良いワケです。

『・・・そんな当たり前の事を言って何になるんだ!?』と思うかもしれませんが、実は人間の脳は、以下のように、いわゆる「分かりにくいもの」を認識できないよう設計されているんです。

  1. 微妙な違いが認識できない
  2. 既存の知識と繋げられない情報は理解しない

これら脳の特徴を、順番にみていきましょう。

1. 脳は微妙な違いが認識できない

この特徴は、「イシューからはじめよ」という本の中のコラム、「知覚の特徴から見た分析の本質」に詳しく書かれています。

(P.152)脳は「なだらかな違い」を認識することができず、何らかの「異質、あるいは不連続な差分」だけを認識する。

(P.153)私たちの脳は異質な差分しか認識しないため、同じかたちのグラフやチャートが続くと、2枚目以降に関しては認知する能力が格段に落ちる。

イシューからはじめよ-(コラム)知覚の特徴から見た分析の本質

イシューからはじめよ

これを証明する良い例に「アハ体験」といわれる動画があります。
以下の15秒ほどの動画、再生中にある一部分がゆっくりと変化しているのですが、気付けるでしょうか?

動画を最初から最後までスキップするか早送りすれば、変化している部分は明らかなのですが、通常の速度で再生すると、恐らくほとんどの人は、気付くことが出来ません。

このように、脳は「なだらかな違い」が分かりにくいのです。
このことを鑑みて、「分かりにくい文章」とは一体どんなものかを、考えてみると・・・

脳がうまく認識できない分かりにくい文章

  • 改行が少なく行間が狭い
  • 文字サイズが統一されている
  • 漢字とひらがなの使用頻度に偏りがある

といった文章になり、極端なものを作ってみると以下のようになります。

差が無く見た目に分かりにくい文章

・・・確かにこれでは、どんなに素晴らしい内容が書かれていたとしても、「分かりにくい」と感じるどころか、ほとんど読む気が起きません。
だって、そもそも「脳が認識しない」んですから。

2. 脳は既存の知識と繋げられない情報は理解しない

さきほど、改行がなかったり、行間が狭いものが「分かりにくい」文章の特徴のひとつだとお伝えしました。

これは文章の「見た目」に対する分かりにくさになるのですが、文章の「内容」に対してはどうでしょうか。
「内容」が分かりにくいかどうかは、当然「読む側の知識の量」で変わってくるように思います。

専門家と素人

例えば、法律の専門家が同業者に向けて書く内容であれば、専門用語を効果的に使った方が分かりやすいですが、素人が読むには難しい文章になってしまいます。

逆に、専門用語を極力使わないようにしたり、都度、用語の説明をするような文章は、素人には分かりやすいですが、専門家が読むと回りくどく、正確性を欠いた文章になります。

このように、読み手の知識量によって、「内容」の分かりやすさというのは、変わってしまいますが、実はどちらにも共通して言えることがあります。
それは「読み手は、自分のもつ知識と、得られる情報を繋げることが出来なければ理解ができない」ということです。

これに関しても、書籍「イシューからはじめよ」の同じコラムの中に書かれています。

(P.154)脳神経系では、「2つ以上の意味が重なりつながったとき」と「理解したとき」は本質的に区別できないのだ。
すなわち、「理解するとは情報をつなぐこと」という意味だ。

(P.154)既知の情報とつなぎようのない情報を提供しても、相手は理解のしようがないのだ。

イシューからはじめよ-(コラム)知覚の特徴から見た分析の本質

法律の専門家でない人が六法全書を読んでも、「難しい事を難しい言葉で説明されている」と感じるだけで、ほぼ理解できないのは、このためなんですね。
(・・・当たり前といえば、当たり前ですが)

理解するということは既知の情報と未知の情報が結びつくということ

そういえば、「分かりやすい文章」は、よく「中学生でも分かるように書かれている」と言われます。

これは、「万人が受けてきたであろう、中学校で学ぶ義務教育の知識」を使うことで、多くの人がもつ「既存の知識」で文章を書くことになり、結果として多くの人が理解できるからなんですね。

しかし、こうなると多くの人にとって『分かりやすい文章を書くためには、中学生レベルの用語しか使えなくなるのではないか?』と思うかもしれませんが、必ずしもそうではありません。

「脳は既存の知識と繋げられない情報は理解しない」のであれば、文章の中で「読み手の既存の知識」を増やしていけば良いのです。

実際に例文をつくってみると以下のようになります。

リコピンには抗酸化作用がある

トマトなどに含まれる赤い色素は「リコピン」といわれ、「活性酸素」を除去する作用があります。
「活性酸素」とは、体内に取り込んだ酸素が変化したもので、増え過ぎると糖尿病や動脈硬化など様々な病気を引き起こすといわれています。

この活性酸素を除去する作用を「抗酸化作用」といい、同じく活性酸素の増加で発生する、シミやソバカスの予防にも効果があるそうです。

文を読みながら、今読んでいることが「既存の知識」になっていくことで、その後に続く「知らなかったこと」も、すんなりと理解できるんですね。

ちなみに、スーパーコンピュータ以上の性能といわれる人間の脳が、なぜこのような「微妙な違いが認識できない」「既存の知識を繋げないと理解ができない」仕様になっているのか?については、脳科学の観点からマーケティングを解説している本に、以下のように書かれていました。

実のところ、私たちの脳は代謝面だけを考えると運用コストが最も高い器官だ。
体全体の3%の重さしかないのに、消費エネルギーの最大20%を食ってしまうのだから。

マーケターの知らない「95%」(P.38)

マーケターの知らない「95%」(P.38)

つまり脳は、性能は良いが燃費が悪いので、エネルギー効率の悪い仕事はなるべく無視するように設計されているといえますね。

「分かりやすい」文章にするためのコツ

ということで、ここで文章を分かりやすく書くためのコツをまとめてご紹介します。

分かりやすい文章を書くためのコツ

  1. 密度(漢字やひらがな、行間や改行)を意識する
  2. 文末と文頭を意識する
  3. 指示代名詞の使い方を意識する
  4. 接続詞を意識する
  5. 長い修飾語は先、短い修飾語は後に書く

1. 密度(漢字やひらがな、行間や改行)を意識する

前述の通り、改行がほとんどない文や、漢字やひらがなの使用頻度が偏っているなど、いわゆる「密度の高い文章」は、見た目に差が少なく脳が認識しづらい≒分かりにくい文章になります。

差が無く見た目に分かりにくい文章

「改行が少ない、漢字やひらがなが連続している」と感じた場合、文章を調整しましょう。

2. 文末と文頭を意識する

これは、特に専門用語を使う必要がある文章を、分かりやすくする手法です。

「前の文の文末と、次の文の文頭に同じ専門用語がでてくる」ということは、すぐにその専門用語の説明に入ることになり、読み手に「用語が理解できない間」というストレスを与えず、スラスラと読んでもらうことができます。

【悪い例】
ここ最近、急速に数を増やしているバイラルメディアと呼ばれるサイトがあります。
具体的には「CuRAZY」「Whats」といったサイトが挙げられ、その数は日本国内だけでも30サイト以上あり・・・

【良い例】
ここ最近、急速に数を増やしているバイラルメディアと呼ばれるサイトがあります。
バイラルメディアとは、主に画像や動画の紹介をするウェブサイトのことで、具体的には・・・

また、文末と文頭で同じ用語がすぐに出現することで、読んでいる情報が忘れられないうちに結びつき、分かりやすい文章になります。

3. 指示代名詞の使い方を意識する

「あれ・これ・それ」「あの・この・その」などの指示代名詞は、多用すると何を指しているのかがボヤけた文章になってしまいます。
前項の「2. 文末と文頭を意識する」と合わせて注意しましょう。

【悪い例】
私は、カフェでコーヒーを買い、次に桜のある公園へ、最後にスカイツリーの展望台へ行く。
ここは私のお気に入りの場所だ。

【良い例】
私は、カフェでコーヒーを買い、次に桜のある公園へ、最後にスカイツリーの展望台へ行く。
スカイツリーの展望台は、私のお気に入りの場所だ。

4. 接続詞を意識する

もし、文章を書いている時に「この文章は分かりにくくないか?」と迷ったら、接続詞をいれて確認してみます。

【順接】 だから、よって【逆接】 しかし、けれども、でも【説明】 なぜなら【補足】 なお、ただし、ちなみに【転換】 さて、ところで

「接続詞」とは読んで字のごとく、文と文を接続するための言葉です。

「接続詞」には、順接の接続詞「だから、そして」や、逆接の接続詞「しかし、けれども」などがありますが、これらどんな種類の接続詞をいれても文章が成立しないのであれば、それは続けて書くべきではない「分かりにくい文章」ということになります。

私は先ほど、大盛りカレーを食べた。
『接続詞』お腹が空いている。

上記、『接続詞』の所には、どんな接続詞を入れると分かりやすくなるでしょうか?

5. 長い修飾語は先、短い修飾語は後

人間の脳神経系には記憶領域がないため、読んでいるウチに情報を忘れていきます。
そのため、短い修飾語を先に配置すると、重要度が低くなり忘れやすくなるので、戻って読み返すことが多くなってしまいます。

【悪い例】
国産の、真っ赤に熟れたトマトです。

【良い例】
真っ赤に熟れた、国産のトマトです。

読み手が忘れないうちに、情報同士をすばやく繋げることで、読み返す必要がない、スラスラと読める文章になります。

まとめ

今回は、人間の脳の特徴から『分かりやすい文章とは何か?』を考えるとともに、それを書くコツを紹介しました。

もちろん、文章は「分かりやすい」だけでは読んでもらえない場合もあります(特に小説や人を楽しませる記事など)。
「分かりやすさ」が全てではありませんが、普段の仕事においてでも、今回の記事が役立つのであれば幸いです。

そういえば、周りを見渡してみると、いわゆる「デキる人」には総じて分かりやすい文章を書ける人が多いように思います。

分かりやすい文章が書けるということは、読み手(相手)の立場になって考えられる人なので、意図の伝え方もうまく、他人との仕事もスムーズに運ぶのかもしれません。